日立商工会議所『かいぎしょNEWS』掲載「名前を彫る仕事に想(こころ)を込めて」

メディア掲載
日立商工会議所さんの『かいぎしょNEWS』8月号に仕事への思いを寄稿させていただきました。

名前を彫る仕事に想(こころ)を込めて
文字には全て意味のこもった成り立ちが存在します。
文字の元々は動物の形だったり、祈りの儀式に用いられる道具などが語源として含まれているもの、そこまで遡ると、文字が持つ意味以上の深い由来が潜んでいるんです。たとえば、私の息子の名前には「想」という文字を選びました。この文字は「木」を「目」で見て感じる「心」が合わさって「想」。「思う」が自分の気持ちを表すのに対し、「想う」は違うものを見て相手を思いやる気持ちを表します。「想」という文字は、私自身にとって大切にしている価値観そのものだと認識し、我が子に託す名前として選びました。

私の店で実印や誕生印を作られるお客様には、極力意識して、文字本来の意味と、書体についての意味合いなどをじっくり説明させていただいています。
「(自分の)名前には、そんな意味合いが潜み、成り立っていたのか!」と驚かれ、文字の持つ興味深さを感じてもらえることも多いです。

もちろん、はんこ屋さんとしての業務の効率化とは全く正反対の行動なので商売には結びつきませんが(笑) 文字を扱うプロである印章作家としては、日々文字についての造詣を深め、お客様に伝えることは、絶対的にすべきことだと思うんです。

印章に用いる名前の文字の中には、古代文字である篆書(てんしょ)にはないものもあるため、作字が必要なこともあります。作字にあたっては、文字の理解が深くなければ、どう構築するかの判断ができない。「もう一本の線を入れるなら、こうだろう!」と、自信を持って文字の形を組み立てられるのは、やはり大きな強みだと考えています。
印章は、その人の分身です。
彫り上げる文字を一つひとつしっかりと理解したうえで、 印章づくりに臨みます。一人のつくり手として、ただ見本通りに文字を彫るのと、対象となるお客様を思い浮かべて彫るのとでは、やはりこちらとしても、意識が変わってきます。ただの業務内の作業としての印章づくりを、私たちは行ってはいません。その価値観は、これからもずっと大事にし続けていきたいと考えています。

印章は、その人その人の大切な場面で使われるもの。自らが購入する場合以外にも、親から子に贈る、孫の誕生時に祖父母から贈るなどのケースも多々あります。その子が大人に成長し、贈った家族がたとえ亡くなった後にも、受け継がれた印章を、人生の節目節目で使うたびに、プレゼントしてくれた方からの愛情を感じるはずです。

名前を彫る行為には、やはり特別な意味合い、託された想いが秘められています。事務的なゴム印をつくるのと、名前を彫刻するのとは感覚的にも決定的に違うもの。単なる記号としての造詣物では決してないからこそ、こだわりたい気持ちが強いのです。

「システムとして必要だから」のみの考えで、安くて早い印章を買い求め、文字自体が成立していなくてもかまわないのならば、それこそ印章は、この世に存在しなくても良いことになってしまいます。私を含め、誇りを持って生業(なりわい)とする者にとって、それはとても悲しいこと。先人たちの想いを継承していかないと、今後、本当に印章が必要とされなくなる時代が来てしまう。そんな風に危惧を覚えてしまうんです。

そうならないためにも、プロである私たちがきちんとした印章をつくり続け、社会の役に立ち続けなければ、という使命感をひしひしと感じています。

「名前」・・・それは、愛のこもった最初にして最高の贈り物。
名前を彫る仕事に責任と誇りをもって、これからも想(こころ)をこめて彫り続けます。

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