一印一話|「大人になったら、ちゃんとした実印を」

個人印

とても嬉しいGoogle口コミをいただきました。
今回ご紹介するのは、あるお客様からご依頼いただいた一生ものの実印のお話です。
このお客様は、以前から長くお付き合いのあるお得意様で、これまでもご家族の節目に何度も当店をご利用いただいてます。今回もご家族の人生の節目に、一本の実印をご用命いただきました。


「父から成人になるとフルネームの実印を渡されるのが始まりで、(実印を押す時は印を押す事に責任が持てるかを覚悟して押しなさい。)と教えて貰い、それからは私も子供の成人祝いには、こちらで実印と父からの教えを伝えています。」

この文章を読んだとき、
印章を作る仕事をしていて本当によかったな、と感じました。

お客様のお父様から受け継がれた、「印を押す時は、その印を押すことに責任を持てるか、覚悟して押しなさい」という教え。印章を、単なる道具としてではなく、自分自身の責任を表すものとして捉える考え方です。

そして、その教えはお客様自身にも受け継がれました。
その記憶とともに、
大人になった自分が印章を使う。
そして今度は、自分の子どもたちへ。
こうして一つの印章を通して、親から子へ、世代を越えて想いが伝わっていく。

今回のお話を伺って、私は改めて、印章にはこういう役割もあるのだなと思いました。

今回お作りしたのは、「翔大」さんのお名前を刻んだ実印です。
当店では、印章をお作りする際に、お名前の文字の「成立ち」や「意味」について、しっかり紐解いていきます。
今回の解説書では、「翔」と「大」の文字について、古い文字から現在の形へとどのように姿を変えてきたのかをたどりました。

「翔」という文字

「翔」という文字を見ると、まず思い浮かぶのは、空を大きく羽ばたく姿ではないでしょうか。
古い文字の姿をたどっていくと、現在の「翔」という文字は、長い時間の中で形を変えながら、今の姿になってきたことが分かります。
私は名前の文字を調べるとき、単に「この漢字にはこういう意味があります」と終わらせないようにしています。その文字がどんな姿から生まれ、どんな意味を重ねながら今に至ったのか。
そこを少し覗いてみると、普段何気なく使っている自分の名前が、少し違って見えてくるからです。

「大」という文字。

「大」は、とてもシンプルな文字です。だからこそ、古い文字の姿を見てみると面白い。
現在の「大」という文字につながる古い形には、人が大きく手足を広げて立つ姿が表されています。その意味を紐解けば、単にサイズが大きいだけでなく、一人の人間といて立派に成長し、周囲に影響を与える「偉大さ」を表すと言われています。誰からも信頼される堂々とした風格を持ち、多くの人々を導き、支え合うことのできる「大きな器」となる願いが込められています。私はその成立ちから、雄大なる風格を思い描き、その想いをのせて文字を刻みます。

普段見慣れている一文字にも、こんな背景がある。そう考えると、名前というものが少し身近に感じられませんか。名前を知ることは、自分を少し知ること。もちろん、文字の成り立ちから、その人の人生や性格が決まるわけではありません。大切なのは、「自分の名前には、どんな意味があるんだろう?」と、少し立ち止まって考えてみること。親はなぜ、この名前をつけたのだろう。どんな人になってほしいと思ったのだろう。自分は、この名前をこれからどんなふうに生きていきたいだろう。そんなことを考えるきっかけになれば、名前を紐解く時間にも意味があるのではないかと思っています。

「晴れの日」の贈り物としての印章。
今回のお客様は、長年、人生の節目に関わる着物のお仕事をされている方です。だからこそ、記念日の贈り物についての目も、とても鋭い方。そんな方から、これまで何度も「はんこの贈り物はいいですよね」と選んでいただけることは、印章を作る私にとって、とても嬉しいことです。

着物も、印章も、毎日の生活で消費してなくなってしまうものではありません。人生の節目に贈られ、「あのとき、これを贈ってもらった」と、後から思い出すことができるもの。そういう意味では、印章もまた、**人生の節目に贈る「しるし」**なのかもしれません。

次は、孫へ。今回いただいた口コミの最後には、こんな言葉がありました。
「子供達に伝える時、父の面影が忘れられません。丁寧に手彫りで、名前の意味や成り立ちを解説して頂きありがとうございます。次は孫に伝えていきたいです。」
この言葉が、とても心に残りました。
一つの印章が、親から子へ。子から孫へ。
と、世代を越えて想いをつないでいく。
もしかすると、印章そのものだけでなく、「ちゃんとした印を持って、大人として責任を持って生きていく」という考え方まで、一緒に受け継がれていくのかもしれません。
そんなお手伝いができることを、印章を作る職人として嬉しく思います。

彫霊という仕事。
今回のようなお話に出会うたびに、「彫霊を始めてよかった」と感じます。彫霊は、単に熟練職人が手彫り印章を作ることだけを意味しているわけではありません。その人の名前を見つめる。文字の成り立ちを紐解く。そこに込められた想いを考える。そして、その名前を一生使う印章として形にする。

名前という、一生付き合っていくものを、もう一度見つめてみる。その時間も含めて、一つの印章としてお届けしたい。それが、私が考える「彫霊(ほりだま)」です。

今回の「翔大」という一本も、これから長い人生の中で、何度も使われる印章になってくれたら嬉しいです。そしていつか、この印章を手にしたときに、「これは、家族から贈ってもらった大切な一本だったな」と思い出してもらえたら。作り手として、これほど嬉しいことはありません。

 

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