「こんな大きな印、作れますか?」
昨年の秋、青森県のある神社様から、一本の電話をいただきました。
「神社の御朱印を手彫りで作りたいのですが、地元のはんこ屋さんではできないと言われまして……」
遠方から、インターネットで当店を探してお問い合わせくださったお客様でした。

ご相談いただいたのは、60mm角の中に枠を入れた神社印、さらにもっと大きな図案印、そして長方形の大型印。3本をゴム印ではなく彫刻印で作成したいというご要望。
「これは、なかなか大変な仕事になりそうだな」
そう思いました。
まずは「作れるかどうか」から
本柘(ほんつげ)の印材は、もともと大きな塊を安定して取れるものではありません。
当店で完全手彫りの印章に使う場合も、サイズが大きくなるほど良質な材料の確保が難しくなります。
特にご希望の大きな図案印(火焔梵字印)については、そのままのサイズで製作するのは難しい。
そこで、印材屋さんにも相談しながら、「できません」で終わらせるのではなく、どうすれば製作できるのか。サイズや形状を検討し、お見積り、実際に製作可能な仕様を探していきました。
何度か打ち合わせを重ね、最終的に、
– 本柘60mm角 神社印
– 本柘60mm角 火焔梵字印
– 本柘65×18mm 長方形印
– 大判朱肉200×141㎜
という形で、製作を進めようということになり、印稿をご提案することになりました。

大きな印を彫るための工夫
今回の仕事では、普段使っている道具だけでは対応できない部分もありました。
現在使用されている印影をもとに、ご依頼のサイズに合わせてリサイズ。
そこからオリジナルの版下を筆耕しました。
特に火焔梵字印は細かな図案だったため、製作にはかなり気を使いました。
また、65×18mmの長方形印などは、通常の印床には収まりません。
そこで、刻印するための専用の木製印台を自作。
固定方法を工夫しながら、完全手彫りで仕上げていきました。

大きな印章を彫るというだけではなく、
「この形、この大きさの印を、どうやって安全に彫るか」
を考えることも、今回の仕事の一部でした。
そして、1年後
それから約1年。
2026年10月、電話が鳴りました。
「青森の〇〇ですぅ。その節はお世話になりました~」
津軽弁の温かみのある声。
すぐに、あの時のお客様だと分かりました。
昨年、何度も相談しながら作った大きな御朱印のことが、ふっと蘇ってきました。
そして、
「前回購入したものと同じ、大判朱肉を1台お願いします」
とのこと。
大判朱肉の追加注文でした。

一年前の仕事が、もう一度ご縁をつないでくれた
正直に言えば、嬉しかったです。
一年前に一生懸命作った印章が、今も神社で使われている。
そして、その仕事をきっかけに、1年後にまたご依頼をいただく。
商品を一つ販売して終わりではなく、
一つの仕事が、その後のご縁につながっていく。
印章店をやっていて、こういう瞬間はとても嬉しいものです。
御朱印の世界は、奥が深い
今回の仕事を通して改めて感じたのは、御朱印の世界の奥深さです。
印鑑というと、実印や銀行印、会社の印鑑などを思い浮かべる方が多いと思います。
しかし実際には、
大きさも、形も、デザインも、使われる場所も、使い方もさまざま。
今回のように、一般的な印章の作り方だけでは対応できない仕事もあります。
だからこそ、印章専門店として、
「こういうものを作りたい」
というお客様の思いを聞き、
「それなら、どうすれば一番いい形にできるだろう」
と一緒に考えていく。
そんな仕事を、これからも大切にしていきたいと思います。

